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愛の難度

未分類
09 /10 2013
愛したつもりになるのは容易いけれど、本当に愛する事はとても難しい。


ひとつ、以前ネットゲームで知り合った引き篭もりの子の話をしよう。


彼の父親は、地元の少年サッカーチームのコーチだった。


父の勧めもあって、最初は彼も乗り気でそのサッカーチームに参加した。


小学校低学年の頃の話だ。


ところが何年練習を重ねても、一向に上手くならない。


そもそも、上手くなりたいという意欲もあんまりない事に、小学校高学年になる頃ようやく気づく。


別に、サッカー、好きじゃないな、と。


そういう事ってある。


最初はなんとなく楽しそうだから、なんとなくかっこいい感じがして始めてみたけど、やってみたら想像と違くて、向いてもなくて、なんだか全然楽しくないって事、俺も実際よくある。



子供ってある部分すごく単純。


「お父さんがサッカーチームのコーチをしてる、お父さんはその仕事を誇らしそうにしてる。じゃあもし自分がそこに入ったらお父さん喜ぶかな」


そんな動機ではじめたんだ。

サッカー。


父の期待に応えようと練習するほど、才能のある子達と自分の間にある、到底埋めようの無い隔たりに絶望する。


ボールを転がすこと、蹴ること、人と力を合わせて何かをすること、別に、そういうの、好きなわけでもない。


最初はただほんと、父親が喜んだらいいなって、それだけで。


気づけば、それが責務のように少年の肩に圧し掛かる。


チームコーチの息子がチームで一番ヘタレだなんて許されない、もっと上手くならなきゃ、やりたくないけど、やらなきゃ、もっと、もっと。


最初「ちょっとやってみたいスポーツ」だったサッカーは、次第に彼にとって「好きでもないスポーツ」になって、そのうち「なるべくならやりたくないスポーツ」になっていった。


けれどそんな時。


めげそうな息子を励まそうとでも思ったんだろう。


彼の父親は、チームでもっともへたくそな我が子を、監督権限でチームのエースに抜擢した。


チームの華、背番号11番。


息子にあげたら、どんなに喜ぶだろう。

この待遇に恥じないため、より一層がんばってくれるだろう。

そうなってほしい。

という愛情。


「に、似た何か」だ。



そう、愛情、では無かったんだ。


彼はほどなくして学校で苛められるようになった。


当然の流れだ。


監督の息子なんかよりサッカーが好きで、本当に大好きで、毎日たくさん、誰より沢山練習して、絶対エースになりたくて、実際自分が一番うまいのに、だけど、監督の一存で、エースは自分じゃなくて監督の息子になりました。


きっと、夜、枕に顔を押し当ててこっそり泣くくらいには、悔しかったろう。


どうして、どうしてよりによってあいつが監督の息子なの。

あいつが監督の息子じゃなかったら、あんな下手でやる気もない、根性もないやつがエースになんて選ばれるはず絶対無かった。

そもそもあいつがいなければ。

あいつが俺の背番号11を奪った。


そういう類の情念に起因する苛めは苛烈なんだ。


なんとなくで始まるちょっとした苛めとは一味違う。


だってそれは、強者が弱者を一方的に弄って楽しむ類の「余興じみた苛め」などではなく、それは少年にとって、何より欲しいものを奪った「あいつ」への切実な復讐だから。


無下にされた努力の分だけ。


エースになりたくて、自分の体に散々課してきた負荷と同じだけ。あいつにも。


そんな、復讐としての役割、残酷さを宿した虐め。


加担するのは、やっぱり少年サッカーチームの面々。


エースになれなかった彼と、同じ種類の屈辱を湛えて、同じ鬱屈を抱いて、だから。


「何でお前がエースなわけ?あ?まじなんなの?親父の権力利用してさ。マジ最悪すぎるだろ」


「何とか言えよ。お前がエースなんて、お前以外誰一人納得してないんだっつの。こいつがいなくなってくれたほうがいいと思う人手挙げてーー」


「はーーい」


「はーーい」


「はーーい」


「ほら、うちのチームのメンバー全員満場一致でお前にいなくなって欲しいってよw」


「エース様!お荷物お持ちしましょうか!いや、持ちます!ほら貸してください!貸せってば!あーーwwwごめんエース様の大事なお荷物うっかりおっこどしちゃったーーーw」



昨夜の雨でできた水溜りの中に放り込まれる鞄と練習着。



お前がエースだなんて、誰も納得してないっつの。



分かってるよ。



お前が消えることに満場一致で賛成だってwww



分かってるってば。



はい、エース様wwwwお荷物泥まみれになっちゃいましたねwwww



僕がエースだなんて、誰も、そう、僕自身だって望んでなかった。



物静かで、
のんびりやで、
体を動かすよりテレビゲームが好きで、
だけど父親を喜ばせたい一身で、
大好きなゲーム、ずっと我慢してサッカーして、
休日だって、父による特別特訓で、
ゲームする時間なんて、ちょっともない。


学校ではチームメイトに苛められて、練習じゃパスは一度も回ってこなくて。




そんな背番号11番。




「復讐なんだ」と彼は言う。


自分が引き篭もるのは、父に対する復讐なのだ、と。


登校拒否したまま中学を卒業して、その後高校にも行かず仕事もせず引き篭もって、20代半ば、唯一の日課は復讐と称したパソコンのネットゲーム。



彼の父が、彼に与えたもの。課したもの。



愛情に、似た、何か。



我が子に、自分がコーチを務めるサッカーチームのエースになって欲しい。



という、「己の欲望」が、我が子を血祭りにあげ、その人生を破壊した。



その事に、父親は未だ気づけない。



父が「息子の姿」を未だ、見えないままだから、彼の復讐は終わらない。



彼の狂気に似たネットゲームへの執着は、やはり彼を虐め破壊したそれと同じ、復讐心。


禍々しい光を放つ剣で、今日も無数の敵を殺す。


僕がんばったんだよサッカー


レベル、レア、勝利、そんなもの。


がんばったけどダメだったよ


別に何もいらないんだよ。


向いてなかったし、好きにもなれなかった


いらないのに、いらないけど、それでしか埋めれないから


だから勝てなかった


だから全部壊れてなくなった


それまで友達だったチームメイトだって結局、自分がエースになって、苛められるようになったら「苛める側」に回った。


だから


誰にも、誰も、誰も、誰も、




僕の上に立つな




そんな風に。



毎日毎晩ネットゲームに入り浸る青年の情念。


ネットゲームの中でだけ執拗に誇示される、他の追随を許さない圧倒的力。


0と1の演算が生み出した、ただのハイテクスチャポリゴンとデータ的数値の累計だけが彼の命を繋ぐ。


その空虚さを誰より知ってるのは、きっと彼自身で。



愛情、に、似た何か。



父は言うだろう。


愛してたのに、お前のためにやってやったのに。


それが本当に愛だったなら。


小学4年の彼を、父が真に見つめていたなら。



彼をエースにはしなかったろう。



彼に、いくらかの自由と選択を与えたろう。


父としての、親としての、少年サッカーチームのコーチとしての自身の望みとは、たとえ違えど、息子の自然な姿を直視し、認め、許してやれてたなら。


ちょっとゲームが好きな、内気だけど気のやさしい青年として、社会の一員を担ってたろうと思う。


「こうなって欲しい」という親の愛情が、子の才能を育てる事も事実ある。


イチローなんかがいい例だ。


けれど、それは「我が子の姿」がちゃんと見えていて初めて効力を発揮する、限定的魔法なんだ。


彼の父が犯した間違いはひとつ。


我が子の姿を見失い、そのまま、見つけてあげれなかった事だ。


彼は今も、父のいない架空の大陸で、父に見つけて欲しくて、そんな矛盾に向かって最強の剣を振り回し続けてるんだろう。



往々にして人は、この「愛に似た何か」を愛なのだと勘違いしてしまう。



人に「何かをしてあげたい」と思うとき、


人に「より良くなってほしい」と願うとき、


それを愛情なのだと錯覚してしまう。


それらの想いは、一見すれば相手の為のようで、実際は「自分自身の望み」でしかないんだ。


「何かをしてあげたい」という「自分の」願望。


「この子に、こうなってほしい、不幸になって欲しくない」という「自分の」願望。


それらは、多くの場合愛と同じに語られるけれど、本来愛とは一線を画して語られるべき事柄だ。


愛とは「こうなってほしい」と思うことじゃなくて、自分の望むようになってくれなくても「それでもかけがえの無い存在だ」と思える、その気持ちただひとつを指すものなのだから。


こういった勘違いによって多くの場合、「自分が」ではなく「自分の愛してる相手が」不幸になってしまう。



もし今「愛してる」と言うべき相手があなたにいるのなら。



その愛が、あるいは「愛に似た、愛ではない何か」でない事を今一度確かめてみるべきだ。


あなたの愛する人のために。

コメント

非公開コメント

自分も学生の頃スポーツがあまり得意でなく
毎日クラスメイトにいじめられ、それらから逃げるように
家でゲームばかりやってました。

でも親は「勉強しなさい」とは一言も言わなかったし、
テストの点が悪くても一切怒りませんでした。

後から聞くと「自分も小さい頃、勉強嫌いだったからね」
と言って笑ってましたが、おかげで登校拒否もせず
無事に社会人になれたんだと思います。

学生の頃は「もう死にたい」と思うほどツライ時期でしたが今は幸せです。

Re: タイトルなし

コメントつけてくれる人がまさかいると思ってなかったからコメント全くチェックしてなかった、、、ごめんよ!

「学生の頃に勉強をしておいた方がいい」という意見もある意味正論ではあるし、「好きな事を我慢する事、辛い事に耐える事も大切」っていうのももちろん正論だし、

ただ、それがどれだけ正しくても、その正しさが子供の心を苛烈に追い詰めてしまう事は往々にしてあって、
きっとenoさんの親御さんはご自身の経験からそういう事をやんわり理解していて、
「テストの点が悪くても怒らない」というのも、放任や無関心ではなく「理解と寛容」だったんだよね。

死にたいと思うほど辛かった学生時代を乗り越えられたのもきっとご両親のその理解と寛容さのおかげで、今後もしまた不運が重なって苦境に追いやられる事なんかがあっても、それを乗り越えさせてくれるのはやっぱりそういうもので。

本物の愛情がそこにあったという事なんだよね。

なんだかほっこりしたよ(`ー`
コメントくれたこと自体にもだけど、コメントの内容にもさ。

いきなりタメ語でなんだかごめんなさいなんだけど、こういった種類の話を聞いたり、応答する時って、敬語で書くとなんだか変に距離があるように感じちゃって苦手なんだ。

だからというわけじゃないけど、自分に対しても気楽な感じに崩したタメ語で来てくれると話しやすい感じがするよ。
もちろん「敬語のほうが楽なんで」っていう人もいるから、その人の自然なスタイルで来てくれればという事なのだけど。

作品を通じて、「今の幸せ」にほんの幾らかでも貢献できたら光栄だなって思うよ。
今作ってるのの次のやつではenoさんの要望もがっつり取り入れちゃうからね(`ー`

お返事ありがとうございます。

敬語に関してはゲーセンで知り合った仲間からも
「タメ語でいいよ」と言われるんだけど、
自分はどうにもそういうのが苦手で(゜▽゜;

逆に自分に対してタメ語で話されるのは全然
気にしないのでメランコルさんの話しやすい形で
どうぞどうぞ(´ω`)

自分には何の才能もないのでメランコルさんのような
絵師の方達は尊敬しちゃいます。

あとリクエストに応えていただけるようで感激です!!
他にもやってほしいシチュはいくらかあるので
今度また要望書き込みますね♪

Re: タイトルなし

そかそかw
enoさん的に敬語の方が自然な感じだったら全然それでw

自分も才能はほんと悲しいくらい無くて、へたすればあの程度の絵の線画だけで5時間とか10時間とかかかっちゃう有り様で、ただ自分には「好きな事だけは病的に延々没頭し続けられる、それが全く苦痛じゃない」っていう、要はアスペルガー全開な特性があるから、もうひたすらアホみたいに時間を注いでどうにかそれっぽく仕上げてるw

自分の内から出てくるものだけだと、どうしても偏りつつ一辺倒なシチュになりがちだから、シチュの要望とかもらえるのは視野が広がってすごく助かるよ。

自分は逆に、好きな作家さんとかにコメント送ったり絶対出来ないビビリだから、enoさんみたいな、ちゃんと自分の感想を本人に伝えられる勇気と行動力にすごく感銘を受けるし、自分ももっと影響を与えてくれた人達にちゃんと気持ちを伝えていかなきゃって思うw

思うだけでなかなか実際にそれをする勇気がでないんだけどね(`ー`

メランコル

基本エッチな絵を描いてます`~`

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